さざなみ1 タツヤ

*これはフィクションです*

 

さざなみ1 タツ

 昨年3月、タツヤの元パートナーから連絡があり、タツヤが危篤だという。勤務先から自宅に帰る途中だったので、一旦家に戻るかどうか迷ったが、そのまま新幹線に乗り、大阪に向かった。

 タツヤはコロナではなかったが、病院は厳戒態勢で、面会は5分に限られた。5分という短い時間・・・しかも自分のためだけの時間ではない。

 二人の共通の友人マサオが亡くなった場所について、タツヤは石垣島だと言い、私は与那国島だと思っていて、長い間、二人の疑問だった。先日書棚の整理をしていて、当時のノートが見つかり、そのノートには、葬儀の日時とともに、与那国島、と書かれてあった。

 タツヤ、ずっと疑問だったマサオが亡くなった場所だけれど、与那国島だったよ。ノートに書いてあった。早く良くなって、一緒に行こうな。

 危篤と聞いていたが、意識ははっきりしているようで、こちらの言うことも理解できるようだった。言葉はなかったけれど、うなずいているように見えた。本当にこのまま死んでしまうのか、と不思議に思った。

 

 一週間後、タツヤの元パートナーから、タツヤが亡くなったというメールが来た。危篤と言われた状態からよく頑張った、という思いと、やっぱり亡くなってしまったのか、という思いが交錯した。

 葬儀は行わない、という話だったが、参加させてもらった。お別れの時に、ご家族、参加者でタツヤが大好きだったビールを飲ませてあげた。

 

 タツヤが亡くなってしばらくは、タツヤに連れて行かれるのではないかと思い、本気で怖かった。コロナはまだ収まらないし、もともと高血圧はあるし・・・

 

火葬場で、ほんの小さなお骨を分けてもらった。今はまだ、沖縄には行けないが、行けるようになったら、タツヤが最後まで気にかけていた沖縄本島辺野古と、マサオが亡くなった与那国島に連れて行ってあげようと思う。