さざなみ2 ヒロユキ

2 ヒロユキ

 ヒロユキは、タツヤと同じく高校時代の友人だ。コーラが大好きで、缶のプルタブを集めてつなげてチェーンを作り、天井から何本も垂らしていて、まるで熱帯雨林のようだった。

 弱冠20歳にしてヒロユキの歯はボロボロだった。コーラとの因果関係は不明だが、私はコーラを飲まなくなった。

 ヒロユキの家の近くに、その筋の親分の家があり、その親分に可愛がられていた。ある時、親分が麻雀するのにメンツが足りなくなり、ヒロユキが呼ばれ、私もついていった。親分は、顔はコワモテなのだが、麻雀はからっきし弱く、ヒロユキと私はお小遣いを姐さんからもらって帰ってきた。姐さんの顔は親分よりもっと怖くて、二度と行かなかった。

 ヒロユキは酒を飲むと気が大きくなり、酒酔い運転の常習犯だった。買ったばかりのシルビアで東名を走り、運転を誤って一回転し、シルビアは即廃車となったが、本人は無事だった。また、ある時はワゴン車で一回転し、救急車で運ばれ、ヒロユキの兄貴とタツヤと私で病院に駆けつけたが、この時も奇跡的に無傷だった。タクシーにはねられて?フロントガラスを突き破って、車内に飛び込んだこともあったらしい。運転手はヒロユキを路上に放置して逃げ、目撃者が警察に通報し、警察官がヒロユキに事情を聞くと、ヒロユキは一言「黙秘します」。警察署で一晩過ごし、警察官に「なぜ私はここにいるのでしょう」と聞くと、警察官は「それはこっちが聞きたいよ」と答えたそうだ。

 

 ヒロユキは、義理・人情を重んじ、頼まれるとイヤとは言えない人間だった。勤めていた会社で経理を担当していたが、会社の資金繰りが苦しくなり、社長が借金するのに連帯保証人になってしまった。自分の会社ではないのだから、連帯保証人になる必要はない、と私もタツヤも口を酸っぱくして止めたが、社長は金を借り続け、1億円になった頃に会社の金を持ち逃げし、行方をくらました。となると、債権者も銀行もサラ金闇金もヒロユキ宅に毎日、毎晩押しかけるわけで、家族を守るために、ヒロユキは蓼科に逃げ、ホテルのマネージャーになった。そのホテルは、いわくつきの物件らしく、一室にその筋の人たちが住んでいて、債権者が来ると追い払っていたという。その頃、バブルで東京の地価もバカ上がりとなり、ヒロユキは自宅を売却し、借金を返済した。

 もう、破天荒そのままの人生だった。

 

 酒とタバコがたたってか、ヒロユキは食道がんになった。ヒロユキが生前葬をやってくれと言うので、仲間で集まって、お花茶屋駅前の飲み屋で生前葬をやった。もちろん本人はタダだ。ヒロユキはそれに味を占めて、その後二回、生前葬をやった。

 食道がんの手術は成功したのだが、しばらくして舌がんにかかった。その年の暮れ、電話があり、来年の桜は見られないかもしれない、と珍しく弱気だった。そんな弱気でどうするんだ、来年も花見に行こうぜ、と励ましたが、しばらくして亡くなった。

 不死身だと思っていたが、とうとう亡くなってしまった。生前葬をやっておいてよかった。